泉南アスベスト国賠訴訟第2陣 第1陣高裁不当判決を否定する、原告勝訴の判決

2012年3月28日、大阪地方裁判所は泉南アスベスト国賠訴訟第2陣に対して原告勝訴の判決を言い渡した。

泉南アスベスト訴訟では第1陣に対して昨年8月、大阪高裁で、「化学物質の弊害が懸念されるからといって、工業製品の製造、加工等を直ちに禁止」すれば「産業社会の発展を著しく阻害する」として、規制には「高度に専門的かつ裁量的な判断に委ねられる」として国の責任を認めない不当判決がだされている。

経済的発展よりも労働者の健康を優先せよ

今回の地裁判決はこれを覆し、昭和35年旧じん肺法制定から46 年の旧特化則制定までの間、罰則をもって石綿粉じんが発散する屋内作業場に局所排気装置の設置を義務付けなかったことは国家賠償法の適用上違法であるとした。

さらに「社会的状況」により厳しい規制ができなかったとする国の主張を、真っ向から否定し「経済的発展を優先すべきとの趣旨ならば、そのような理由で労働者の健康を蔑ろにすることは許されない」と、大阪高裁判決を強く意識したものとなっている。

まだ終わらない 命あるうちの解決を

実は筆者は判決日の朝、泉南・阪南両市に点在するアスベスト工場跡地を訪問して公判に臨んだ。残された工場跡は多くが零細工場で、中には河川敷と電車軌道に挟まれた狭隘な場所に残されたものもあった。このような零細事業所では、粉じんの規制と同時に装置の開発・選定、改良補助など国には多くの「すべき仕事」があったに違いない。

アスベスト被害は急速に進行していく。「命あるうちの解決」を求める大きな世論の力で勝ち取らなくてはならない。



職場の「パワハラ」問題を考える講演会

川村遼平氏

1986年生まれ。千葉県出身。NPO法人POSSE事務局長。東京大学大学院総合文化研究科修士課程。
著作に、『ブラック企業に負けない』旬報社、森岡孝二編『就活とブラック企業』岩波ブックレット。
NPO法人POSSE(ぽっせ)
2006年に都内の大学生・若手社会人によって結成され、現在は東京・仙台・京都で活動。労働相談、労働法教育、調査活動、政策研究・提言、文化企画を若者自身の手で行う。2008年12月から雑誌『POSSE』を年4回刊行している。
「POSSE」はラテン語の「力を持つ」意味であり、また英語の俗語として「仲間」も意味する。
[HP]
http://www.npoposse.jp

[雑誌]
http://www.npoposse.jp/magazine

 

 

 

 

 

連日のように入る労働組合や労働相談センターなどへの相談内容は、解雇、退職強要、一方的労働条件変更、賃金未払い、有給休暇取得問題などで、労働者は会社に対してものを言うこともできず、泣く泣く駆け込んで来るケースが増えています。また、職場の上司からのセクハラやパワハラなどのハラスメントに関する相談が増えてきているのも特徴です。近年、大学や専門学校を卒業し、正社員など安定した仕事に就いている人は半数にとどまるといわれます。競争を勝ち抜き無事に正社員として就職できたとしても、就職先がいわゆる「ブラック企業」と称される会社では、劣悪な労働条件と非人道的な労務管理に曝され、挙げ句の果てに使い捨ても。こうした若者は人格が破壊されるだけでなく、うつ病などの心の健康破壊も深刻で、過労死・過労自殺へと追い込まれています。

北九州労健連では、若者を中心に積極的な相談活動に取り組んでおられる「NPO法人POSSE」の川村遼平事務局長を講師に、メンタル不全の大きな要因となっている職場における「パワーハラスメント」問題について考える講演会を開催します。相談活動から見える労働現場におけるパワハラの現状や、ブラック企業の労務管理(=支配の実態)についてお話して頂きます。


  • 第1部 講演 「相談活動から見えるブラック企業の人間破壊システムの実態」 (仮題)
    講師 川村遼平氏(NPO法人POSSE事務局長)
  • ?第2部 リレートーク
    「北九州における若者達の働き方・働かされ方の現状」

?日程

□日 時  7月28日(土) 14時00分~17時00分

□ 会 場  ウェルとばた・多目的ホール (JR戸畑駅隣接)

□ 参加費 500円(資料代)  ※学生は学生証提示で無料

□定 員 180名 ※定員になりしだい締め切ります。

□ 申込先 電話 093-871-0449 (代表)

 

?お問い合わせ先

北九州労働者の健康問題連絡会議
北九州市戸畑区中原東3丁目11-1 九州社会医学研究所内
TEL 093-871-0449  FAX 093-872-3695



労働安全衛生法改正への声明

2012 年 1 月20日
全日本民主医療機関連合会会長 藤末 衛

1)はじめに

国は、 2011年秋の臨時国会に「医師もしくは保健師によるストレスに関する検査を実施し、労働者の申し出により医師による面接指導を行うこと」を柱とする労働安全衛生法改正法案を提出した。法案は実質的審議が行われないまま継続審議となった。

この労働安全衛生法改正法案には以下の点で重要な問題点があり、職場のメンタルヘルスの改善にはつながらない。
産業医活動や職域健診など産業保健活動を誠実に行っている私たち全日本民医連は同法案の撤廃を強く求める。

2) 経過

10数年間にわたり自殺者が 3万人を超え減少傾向が認められていない。厚生労働省に設置された「自殺・うつ病等対策プロジェクトチーム報告」において、職場におけるメンタルヘルス対策が重点の1つとされ、メンタルヘルス不調者の把握と把握後の適切な対応について検討することとされた。

具体化を図るため開催された「職場におけるメンタルヘルス対策検討会」では 2010 年 5 月31日から7月14日までの短期間の討議で報告書を作成し、9 月7 日公表した。

これに対して日本産業衛生学会は 2010年6月 26日「一般定期健康診断の一部として、全事業場で一律にうつ病のスクリーニングを実施することには現状では問題が多く、日本産業衛生学会理事会としては賛成できない」との見解を表明している。

ところが、厚生労働省は新たに「事業場における産業保健活動の拡充に関する検討会」を開催し外部専門機関の導入を促進する報告書を取りまとめた。

こうした動きに対して産業衛生学会産業医部会は2010年12月25日「健康診断時うつ病スクリーニングならびに産業保健活動の拡充を目的とした外部専門機関導入構想に対する産業医部会としての意見」を表明している。さらに2011 年9 月 15 日には「産業医有資格者、メンタルヘルスに知見を有する医師等で構成された外部専門機関を、一定の要件の下に登録機関として、嘱託産業医と同様の役割を担うことができるとした「建議」に基づく法(または省令等)改定の中止を求める」産業医部会幹事会の見解を表明した。

すなわち、わが国の労働衛生の専門学会が反対している施策を、国は強引に推し進めようとしているといえる。

3) 法案の概要は以下のとおりである

  1. 医師もしくは保健師がストレスチェックを行い、結果を直接本人へ通知して産業医等の面接を促す。
  2. 労働者が産業医等の医師への面接を事業者に申し出でる。
  3. 事業者は申し出のあった労働者に対し産業医等への面接を受けさせる義務がある。
  4. 産業医等はさらに本人が同意した場合に限り、事業者に対して就業制限等の意見を述べる
  5. 事業者は医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少その他の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を行う

4) 労働安全衛生法「改正j法案には以下の問題点がある。

  1. 第一にストレスチェックの効果が確立していないことである。
    職域のストレスチェックを行いその後の面接指導で改善が認められた報告論文は僅か1編のみであり、それもスクリーニングされた者のうち9割以上が精神科医等の面接指導を受けた場合とされている。
    今回推奨されている9項目の質問表を用いたメンタルヘルスの改善事例の蓄積は殆ど無い。
    ストレスチェックで対象とされる労働者は 10数%と想定されており、この中には多数の偽陽性者が含まれると考えられる。
    EBMの確立していない方法はとるべきではない。
  2. 多くの非正規労働者が、はじめから除外されてしまう可能性が高い。
    また零細企業では健診受診率さえも低いのが現実であり、これらの労働者も除外されかねない。
  3. さらに、ストレスチェックによる「偽陰性」が相当数出ることが懸念される。
    現在非正規労働者は三分の一以上になっており、とりわけ若者では過半数が非正規労働者である。
    雇用関係が不安定な非正規労働者では「メンタル不調者」に対する「雇いどめ」が横行している現状からすれば、ストレスを抱えていても正直に訴えることが出来ないのが実態である。
  4. こうした「偽陰性」労働者に対しては「適切に申告しなかった」として「自己責任」が押し付けられる可能性が高い。
    また事業者が自らの職場に問題なしとして改善を行わない口実ともされかねない。
  5. ストレスチェックにより面接の対象となった労働者が事業者に面接の申し出を行うことにも問題がある。
    精神障害による労災認定事例でも多くは長時間労働や職場のパワーハラスメントが要因とされている。
    これら長時間労働を強要しまたはハラスメン卜を行っている上司等に面接希望を申し出る事は、困難である。
  6. 事業者による就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の事後措置は、事業者が「その必要があると認めるとき」とされているが、その判断は客観性を持たない
  7. このストレスチェックを外部専門機関に委託した場合、産業医契約を行ったとみなすことが可能となっている。職場における労働安全衛生に関する課題は、アスベストをはじめとする有害物質対策や、人間工学的対策など様々なものがある。産業医の活動をメンタルヘルス対策に矮小化しかねず、これまでの産業医が行ってきた業務を軽視し、信頼関係を損ねかねない。

5)健康職場作りが重要

職場における、メンタルヘルス対策は、労働者一人ひとりを対象としたストレスチェックではなく、一次予防を中心とした健康職場作り対策が必要である。
とりわけ、職場におけるハラスメント予防や長時間労働をなくす取り組みを強化する事が最重要課題と言える。

“労働安全衛生法の一部を改正する法律案”のうち、「メンタルヘルス対策の充実・強化」の部分が、労働者のためにならないことが明らかなために、廃案または一旦保留として大幅な修正を求めます。
日本産業衛生学会の産業医部会も以上の意見を表明しています。



アスベスト問題の解決を遅らせる 泉南アスベスト 国賠訴訟・大阪高裁の不当判決

2011年8月25日、「国は、知ってた!できた!でも、やらなかった!」をスローガンにアスベスト被害における国の責任を追及してきた泉南アスベスト国賠訴訟で大阪高等裁判所は昨年5月の大阪地方裁判所の判決を覆し原告の請求を棄却する不当判決を下しました。

健康被害の責任を労働者に転嫁

大阪高裁判決では、「化学物質の弊害が懸念されるからといって、工業製品の製造、加工等を直ちに禁止」すれば「産業社会の発展を著しく阻害する」として、規制には「高度に専門的かつ裁量的な判断に委ねられる」として国の責任を認めませんでした。産業発展のためには労働者・国民の生命や健康をないがしろにしてきた国の責任を不問に付すもので断じて認めることは出来ません。
一方で、労働者に対してはマスクの着用やアスベスト粉じんが付着した作業衣を自宅に持ち帰らないことは常識であったと責任を転嫁しています。健康被害を受けた労働者や家族、周辺住民に責任を押し付ける露骨な「健康(疾病)の自己責任」論というべき暴論です。

約100年間もアスベスト紡績業を奨励した地域

大阪・泉南地域は1907年から約100年間アスベスト紡績業が営まれていました。その企業規模は小さくほとんどが零細・家内工業的なものでした。作業環境は劣悪で昭和初期には内務省保険院の調査で石綿肺の発症が指摘されていました。ところが戦前は軍需産業優先、戦後は高度成長政策のもとで製造が奨励されてきました。そしてアスベストの健康被害は労働者や住民には知らされることなく大勢の被害者が発症してしまいました。

アスベスト被害者は出続ける

アスベストは、石綿肺や中皮腫、肺がんと言った極めて重篤で予後不良な疾病を発症させます。わが国ではアスベストが全面禁止されるのは他の先進諸国と比べ遅く、局所排気装置の設置も不十分でした。また、現在行なわれている建築物等の解体工事でもアスベスト対策は十分行なわれていないのが実態です。アスベスト被害者は今後も長期にわたって出続けることが予測されています。

「結果的に、石綿という有毒な化学物質によって石綿取扱作業に従事した労働者及びその周辺関係者等に重大な被害が生じた」としても、国には責任が無いとする今回の判決は健康で働き生活する国民の固有の権利である「健康権」を軽視したものとなっています。
アスベスト問題にとどまらず、現在重大な事態となっている福島原発事故の健康被害の対する国の責任に関しても悪影響を与えかねない許しがたい判決といえます。



ストレス症状を有する者への面接指導制度の問題点

健康診断でのメンタルヘルスチェックには問題が指摘

1、はじめに

2010年12月に、労働政策審議会から、職場におけるメンタルヘルス対策の「新たな枠組み」として、ストレス症状を有する者への面接指導制度に関する提案が厚生労働大臣に建議された。提案が建議された背景は、自殺者が1998年以降12年連続して3万人を超えているが、このうち「勤務問題」が原因・動機の一つとなっている者は約2,500人に達すること。仕事や職業生活に関して強いストレス等を感じている労働者は約6割おり、精神障害等の労災認定件数が増加傾向にあるにも関わらず、心の健康対策(メンタルヘルス対策)に取り組んでいる事業所の割合は約34%(平成19年)にしか過ぎない現状から、職場でのメンタルヘルス対策の推進を目的提案された。

しかし、本制度は、専門家や関係者から有効性や個人情報の保護などに関して多くの問題が指摘されている。

2、面接制度の概要

面接制度は、健康診断の際に、医師が労働者のストレスに関連する症状・不調を確認し、この結果を受けた労働者が事業者に対し医師による面接の申出を行った場合には、事業者が医師による面接指導及び医師からの意見聴取等を行うというものである(図1)。仕組みとしては、現行の長時間労働者に対する医師による面接指導制度と同様のものである。

3、問題点:有効性について

ストレス症状を有する者への面接指導制度

面接制度の問題として指摘されるは、①健診の際の問診のスクリーニングの有効性、②個人情報の保護の問題、③外部専門機関の問題である。

スクリーニングは健診の際の問診に組み込むことが想定されているが、限られた質問項目で、メンタルヘルスの課題を持つ労働者を的確に拾い上げることは困難と考えられる。メンタルヘルスに関わるセンシティブな事項を健診の問診で正確に回答することは期待しにくく、しかも、短い時間で実施される健診時の診察でメンタルヘルスの問題を抱える労働者を医師が拾い上げることも困難と考えられる。

ストレス症状を有することを医師から指摘された労働者は事業者に産業医等による面接を申し出ることになるが、事業者による不利益な扱いを恐れ、面談を希望しない労働者が多くなることは容易に想像できる。一方で、事業者はメンタルヘルスを抱える労働者をより広く把握することが可能になるだろうが、その結果、個人の健康情報の不当な利用も危惧される。

さらに、メンタルヘルスのスクリーニングをすると正常者を含む多数の労働者が医師による面談が必要と判断されることになる。しかし、現場ではメンタルヘルス問題に経験のある産業医は圧倒的に不足している。そこで、新たな枠組みで外部専門機関に産業医と同等の資格与えることが提案された。この点に関しても、職場のメンタルヘルス問題は職場の労働実態を熟知した専門家が職場環境の改善も含めて個別のメンタルヘルス問題の解決にあたることが有効と考えられており、安易な外部機関の活用ではメンタルヘルス対策の実効性は期待できないと考えられる。



アスベスト問題はこれからだ!!

アスベスト問題はこれからだ!!わが国では輸入されたアスベストの7~9割が建材に使用されており現在でも労災認定の約半数が建設関連労働者となっています。

九州社会医学研究所では健康管理医をしている中央建設国保組合福岡建設支部(福岡県建設労働組合)と共同で2009年10月よりアスベスト関連疾患の「労災掘り起こし」活動を行っています。

掘り起こしから認定まで

まず中皮腫や肺がん、間質性肺炎、石綿肺などアスベスト関連疾患を疑う組合員を各医療機関から健康保険組合に申請される医療費のレセプトを基に抽出します。次に中建国保の出張所で本人の職歴の聞き取り調査と、必要な組合員さんから主治医への問い合わせに関する同意書を取っていただきます。その上で健康管理医である田村所長、舟越副所長から主治医に対して病状照会状を出し胸部レントゲンやCTなど検討に必要な写真の貸し出しを行なってもらいます。病歴の確認及びレントゲン・CTの検討などを行い、労災申請が可能な組合員さんの労災申請を行ってきました。既に8名が労災認定を受けています。

 

【事例 塗装工に発症した肺がん 60歳台 男性】

長期間、塗装作業に従事しアスベスト暴露を受けています。

胸部レントゲンでは、左中肺野の胸壁に10mm程度、右中肺野胸壁に4mm程度の胸膜肥厚斑(胸膜プラーク)の陰影を認めました。また、胸部CTでも右中肺前壁、中下肺野側壁~後壁に胸膜プラークを認め、左中~下肺野側壁~後壁にかけて広範囲に胸膜プラークが認められました。【図1】
厚生労働省の認定基準では、石綿曝露作業者に発生した原発性肺がんは①胸膜プラーク②または石綿肺所見を有する者に関しては労災認定を受けることが出来ることになっておりこの事例の組合員さんは典型的な胸膜プラーク像を呈していました。

認定基準の胸膜プラーク

ところが主治医は「肺がんの原因はタバコ以外に考えられない」とアスベストによる肺がんを疑っておられませんでした。検討結果を詳細に報告し主治医と連絡を取るなかで主治医も労災申請に協力的となり認定を勝ち取っています。救済活動とともに臨床医の連携を進め、教育する場ともなっています。今年10月には福岡建設労働組合の組合員を中心とした九州建設アスベスト訴訟の提訴も予定されています。建設労働者のアスベスト被害者の救済活動を活発に行なっていきます。



九州社医研レター №16

□2012年3月24日~26日にかけて、ドクターズネット九州と九州セミナーによる「アスベスト大学習会2012」を福岡市内で開催しました。

□第1陣高裁不当判決を否定する、原告勝訴の判決

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ありふれた上肢の障害も職業病 上肢障害の事例

写真1、手指に瓦をかけて運搬する作業

写真1、手指に瓦をかけて運搬する作業

仕事による使い過ぎで生じた上肢の病気は上肢障害として労災認定されるようになっている。しかし、ありふれた病気にもかかわらず「私病」として見過ごされることが多い。最近、労働組合から労災認定の相談を受ける事例が増えており、疾病を生活と労働の場でとらえなおす意味で上肢障害の事例を紹介する。

 

 

 

事例:瓦工(腱鞘炎、男性、61才)

2007年頃から、左2.3.4指と右1.4指の違和感を自覚。2008年末頃から、左手の指が曲がりにくく弾発現象が出現し、近医整形外科を受診し腱鞘炎と診断。労災申請の相談のため2009年9月に千鳥橋病院を受診。後日、労災申請の援助を行い労災認定となった事例である。

瓦の運搬と瓦切りによる過度の負担

写真2、瓦切りの作業

写真2、瓦切りの作業

事例は34年間、瓦工として従事していたが、特に、手指の負担が強いのは、瓦の運搬作業と瓦切りの作業であった。瓦の運搬(写真1)は、瓦4枚を結束した束を(約13kg)両手で把持して持ち運ぶものである。瓦を把持する指に極めて強い負荷のかかる作業を繰り返し、1日で2,000枚から2,500枚の瓦を運搬するものであった。瓦切りの作業(写真2)は、瓦の切り機を用いるが、右手で切り機のレバーを強く把持して使用し、左手で瓦を把持して固定する。左手は、瓦が歪まないように固定するため強く把持することが必要で、その負荷も相当に強いと考えられた。
腱鞘炎の原因は、教科書的にも「原因は必ずしも明らかではないが、手指の過度の使用による慢性非特異的炎症によると考えられている。また、妊娠、出産を機会に発症することや、更年期の女性に後発することからホルモンの関与も推察されている(図説臨床整形外科講座)」と、仕事による過度の使用が原因と考えられている。労災認定の基準でも、上肢の過度の負担に発生した運動器疾患の一つとして明示された疾患となっている。

上肢障害の労災認定条件

表1、建設労働者で労災認定された 上肢障害の事例

表1、建設労働者で労災認定された
上肢障害の事例

この事例の他にも、多くの上肢障害の事例が当院で労災認定となっている(表1)。先述の上肢障害の労災認定条件では、「①上肢の反復動作②上肢を上げた状態で行う動作③上肢の特定の部位に負担のかかる状態で行う作業」が上肢に過度に負担が加わる作業と定義されている。こうした作業は建設労働を中心に少なくない。上肢障害を訴える事例に関しては、職歴を聴取し、上肢に過度に負担が加わる作業の従事歴があれば労災認定の支援を積極的に行うことが必要である。

九州社会医学研究所 
副理事長 舟越 光彦



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