第25回人間らしく働くための九州セミナー in 鹿児島

九州セミナー

7面メイン写真

人間らしさを求めて

 第25回人間らしく働くための九州セミナーが11月29日㈯・30日㈰の2日間、鹿児島市の鹿児島県市町村自治会館他で開かれ、540人が参加しました。開会式では田村昭彦代表世話人会議長のあいさつと、九州セミナー賞を受けた6団体の表彰が行われました。1日目の記念講演では、河添誠氏が講演。講演後、パネルディスカッションとして、5人のパネリストによる意見交換と質疑応答が行われました。1日目の最後は、上岡恵子氏が講演し、「先進国の日本がILOの条約未批准国という世界的に恥ずかしい状態だと知り、批准活動の視点にも立って労働組合で活動したい」との感想もありました。2日目は岸玲子氏が特別講演を行い、講演後、10のテーマで分科会が行われ閉会しました。来年の第26回九州セミナーは佐賀県で開催される予定です。

 

記念講演
ブラック企業問題の本質をさぐる

7面河添写真

河添 誠 (首都圏青年ユニオン青年非正規労働センター事務局長)

日本の労働が抱える2つの困難=長時間・過密労働・低賃金の正社員と不安定・貧困の非正規には関連性があります。ブラック企業を辞めればいいという批判がありますが、辞められないのが現実で貯蓄がなく失業保険も受給できないため、収入が途絶えると生活ができないからです。
正社員を希望することは違法で過酷な労働環境であっても選べないことでブラック企業をなくすには、非正規の貧困問題を解決しなければならず、正規・非正規に関わらず、労働時間の上限、連続休息時間、十分な失業給付、休業補償の充実などの労働条件改善が必要になります。
2014年5月15日、世界のファストフード従業員が賃上げと組合組織を認めさせるための統一行動を行いました。時給1,500円=年収279万円は高いのか。労働者を守る会社が競争社会の中で負けてしまうと守らないことが標準化してしまいます。
まっとうな働き方が実現できるよう底上げを行う必要があり、地域全体で支援し運動を作っていくことが重要です。

 

パネルディスカッション
ブラック企業社会の実態健康権と労働組合の値打ち

7面シンポ左7面シンポ右

ブラック企業社会の実態について労働相談の現場から報告した平良行雄氏(鹿児島県労連事務局長)は、労働者が社長の借金の肩代わりをさせられた事例や労働者に過大な罰金を科すコンビニ店の実態について報告しました。

7面シンポ中

司会の田村議長

介護現場で働く北原輝さんは、職場環境の改善をめざし労働組合を結成、ほとんどの職員が加入したが、理事会の攻撃を受けた経緯を赤裸々に語りました。
国分生協病院の山下義仁医師は、医療現場から見た過密労働の実態を報告しました。
全労働省労働組合の森崎巌さんは、労働相談件数トップの「いじめ・嫌がらせ」は近年、急増していると指摘し、その背景に人間関係の希薄化があることを報告しました。
鹿児島県立短期大学の朝日吉太郎教授は、日本の労働条件は、諸外国と比較してみると異常であり、日本企業はブラック企業の体質があると指摘しました。
ディスカッションの中で労働組合の存在は、「不可欠」であるとの議論がなされました。

 

総括講演
まっとうな働き方「ディーセントワーク」

7面上岡写真

上岡 恵子 (ILO駐日代表)

一日目最後の総括講演は「ディーセントワーク(DW)」をテーマにILO駐日代表の上岡恵子氏が登壇しました。DWの日本語訳は「働きがいのある人間らしい仕事」でその推進と実現は先進国、途上国を問わず広く世界の課題になっていると説明しました。
30年間の国内外での勤務経験から、日本の優良企業の働き方は必ずしもDWでなく、「日本の働き方はどうあるべきなのか」という視点を持たなければ、実践に結びつかないと述べました。
上岡氏は、ILOの宣言やDWの4つの戦略目標⑴仕事の創出⑵労働者の権利確保⑶社会保障の充実⑷社会対話の促進などを紹介した上で、日本の職場文化を変えていかなければ「次の30年、50年も変わらない」と指摘しました。
「30年ぶりの日本は偏差値で子どもの学力を計るように、職場でも正規と非正規の優劣をつけている」と日本人の働き方について問題提起。「今までの概念は横において皆さんがどんなDWをしたいか考え直してほしい」と呼びかけました。

 

25周年記念特別講座
特殊な労働政策が根本問題の一つ

7面岸写真左

岸 玲子 (北海道大学特任教授)

2日目の企画として、「公衆衛生の視点と女性の視点で人々の生活と健康と安全を考える」をテーマに講演をしていただきました。
公衆衛生の視点で日本の百年を振り返り、「百年前は35歳だった平均寿命が、世界最高水準の寿命を享受するまでに到達したのは大きな成果であった」と話されました。一方で、経済格差が広がり新しい公衆衛生の課題となっていることが紹介されました。
世界最低水準の出生率、年間3万人近い自殺数、そして、OECDで2番目の貧困率という日本の社会経済の現状に触れて、日本はかつてなく、「生きづらく、生きにくい国になっている」と説明されました。
こうした現状からの転換として、「生を支え、生を守るための健康政策と医療政策」の実現を呼びかけられました。特に、長時間労働の解消とジェンダーの視点の改革が強調されました。また、長時間労働や非正規労働の問題も、女性労働を補助的労働として位置づけられてきた日本の特殊な労働政策が根本的な問題の一因であることが指摘されました。
限られた時間でしたが、労働者の健康問題の歴史を俯瞰し、その克服の課題を考えさせていただいた記念講演にふさわしい実りの多い内容でした。

<< >>

  • 社医研レター

  • おすすめの書籍

  • 衛生外来


  • 114548