アスベスト問題の解決を遅らせる 泉南アスベスト 国賠訴訟・大阪高裁の不当判決

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2011年8月25日、「国は、知ってた!できた!でも、やらなかった!」をスローガンにアスベスト被害における国の責任を追及してきた泉南アスベスト国賠訴訟で大阪高等裁判所は昨年5月の大阪地方裁判所の判決を覆し原告の請求を棄却する不当判決を下しました。

健康被害の責任を労働者に転嫁

大阪高裁判決では、「化学物質の弊害が懸念されるからといって、工業製品の製造、加工等を直ちに禁止」すれば「産業社会の発展を著しく阻害する」として、規制には「高度に専門的かつ裁量的な判断に委ねられる」として国の責任を認めませんでした。産業発展のためには労働者・国民の生命や健康をないがしろにしてきた国の責任を不問に付すもので断じて認めることは出来ません。
一方で、労働者に対してはマスクの着用やアスベスト粉じんが付着した作業衣を自宅に持ち帰らないことは常識であったと責任を転嫁しています。健康被害を受けた労働者や家族、周辺住民に責任を押し付ける露骨な「健康(疾病)の自己責任」論というべき暴論です。

約100年間もアスベスト紡績業を奨励した地域

大阪・泉南地域は1907年から約100年間アスベスト紡績業が営まれていました。その企業規模は小さくほとんどが零細・家内工業的なものでした。作業環境は劣悪で昭和初期には内務省保険院の調査で石綿肺の発症が指摘されていました。ところが戦前は軍需産業優先、戦後は高度成長政策のもとで製造が奨励されてきました。そしてアスベストの健康被害は労働者や住民には知らされることなく大勢の被害者が発症してしまいました。

アスベスト被害者は出続ける

アスベストは、石綿肺や中皮腫、肺がんと言った極めて重篤で予後不良な疾病を発症させます。わが国ではアスベストが全面禁止されるのは他の先進諸国と比べ遅く、局所排気装置の設置も不十分でした。また、現在行なわれている建築物等の解体工事でもアスベスト対策は十分行なわれていないのが実態です。アスベスト被害者は今後も長期にわたって出続けることが予測されています。

「結果的に、石綿という有毒な化学物質によって石綿取扱作業に従事した労働者及びその周辺関係者等に重大な被害が生じた」としても、国には責任が無いとする今回の判決は健康で働き生活する国民の固有の権利である「健康権」を軽視したものとなっています。
アスベスト問題にとどまらず、現在重大な事態となっている福島原発事故の健康被害の対する国の責任に関しても悪影響を与えかねない許しがたい判決といえます。

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